延長戦

本当は「かわうそ」ぢやなくて「かはうそ」なのですが、まあいいでせう。

子規のペンネームの1つ「野球[のぼーる]」が「野球[やきゅう]」の語源であるといふ俗説もあるのですが、これは間違ひです。子規自身は baseball の意味で「野球」という単語を使つたことはなく、「ベースボール」「弄球」「投球」といつてゐました。baseball を「野球」と訳したのは、第一高等中学校野球部員の中馬庚[ちゅうまかのえ]といふ人です。それまで、baseballをそのまま訳した「底球」などと呼ばれてゐました。それを、「テニスはコートでプレーするから庭球、ベースボールはフィールドで行なふから野球」とし、これが広まつたのです。

しかし、子規の弟子・河東碧梧桐が著書『子規の回想』の中で、


「ベースボール」を訳して「野球」と書いたのは子規が嚆矢であった。が、それは本名の「升」をもじった「野球[ノボール]」の意味であった。

と書いたため、ここから「子規が baseball を野球と訳した」といふ俗説が生まれました。


今やかの三つのベースに人満ちて そぞろに胸の打ち騒ぐかな 子規